双極性障害(躁うつ病)は、「躁状態(ハイな気分)」と「うつ状態(落ち込んだ気分)」が交互に現れる精神疾患です。その発症のメカニズムや誘因について、現代医学では完全に解明されていませんが、遺伝・脳の機能・環境要因などが複雑に絡み合って起こると考えられています。
以下に、わかりやすく、かつ詳しく解説します。
1. 【脳のメカニズム:神経伝達物質のアンバランス】
■ 主な関与物質:
・セロトニン(Serotonin)
・ノルアドレナリン(Norepinephrine)
・ドーパミン(Dopamine)
■ メカニズム概要:
・これらの神経伝達物質は、気分や意欲、睡眠、食欲、集中力などを調整する役割があります。
・双極性障害では、これらの伝達物質が過剰または不足し、脳内のバランスが崩れることで気分の波が生じると考えられています。
例:
・躁状態ではドーパミンやノルアドレナリンが過剰になり、過活動、万能感、睡眠の減少などが現れる。
・うつ状態ではセロトニンやノルアドレナリンの低下により、意欲低下、絶望感、食欲不振などが出現。
2. 【脳構造・機能の異常】
■ 検査研究での知見:
・前頭前野(思考や判断をつかさどる)や扁桃体(感情の調整)、帯状回の活動異常が報告されています。
・脳の白質に小さな異常(白質病変)が見られることがあり、神経回路の情報伝達に支障をきたしている可能性があります。
3. 【遺伝的要因】
■ 家族歴の関係:
・双極性障害の第一親等の家族(両親・兄弟姉妹)に同じ病気の人がいると、発症リスクが約5~10倍高くなるとされています。
・一卵性双生児の一致率は約40〜70%と高く、遺伝の影響は明らか。
ただし、遺伝だけでは発症しないことも多く、環境的要因が引き金になります。
4. 【環境要因・誘因】
■ 精神的ストレス:
・受験・就職・結婚・出産・転職・離婚・死別などのライフイベント
・慢性的な対人関係の悩みや社会的孤立も大きな影響を与える
■ 睡眠の乱れ:
・睡眠不足や昼夜逆転は躁状態の誘発因子になることが多い
■ アルコール・薬物使用:
・アルコール依存や違法薬物使用によって症状が悪化・誘発することがある
■ 出産(産後):
・特に女性では、出産後のホルモンバランスの急変が引き金になるケースがあります(産後精神病の一部が双極性障害と診断されることも)
5. 【ホルモンと生体リズムの異常】
・概日リズム(体内時計)の乱れが、双極性障害の症状と関連しているという研究が進んでいます。
・例えば、「明るさ」「睡眠」「活動時間」といった環境リズムの変化が、感情の振れを引き起こす場合があります。
まとめ:発症の要因と流れ(図式化)
【1】遺伝的素因
↓
【2】神経伝達物質や脳機能の脆弱性
↓
【3】生活上のストレス・睡眠不足・ホルモン変動など
↓
【4】気分の波が大きくなり、双極性障害が発症
補足:発症年齢と経過
・発症年齢:10代後半〜30代前半が多い
・初めはうつ状態だけが見られ、「うつ病」と誤診されることも多く、後に躁状態が出て初めて双極性障害と診断されるケースがよくあります。