はじめに
肢体の障害に関する障害年金のご相談の中で、特に判断や整理が難しい疾患として挙げられるのが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と筋ジストロフィーです。いずれも進行性の神経・筋疾患であり、初診日から現在に至るまでの経過把握や、現症の正確な評価が容易ではないからです。
本コラムでは、ALSと筋ジストロフィーの疾患としての違いを整理したうえで、障害年金の裁定請求時・更新時にどのような点を意識して現症を把握すべきかを、実務の視点からわかりやすく解説します。
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1.ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは
ALSは、運動ニューロン(運動神経)が選択的に障害される進行性の神経変性疾患です。脳から筋肉へ命令を伝える神経が徐々に機能を失うことで、全身の筋力低下や筋萎縮が進行していきます。
■ 主な特徴
・発症後、比較的速いスピードで進行する
・感覚(痛み・温度など)は保たれることが多い
・筋力低下、筋萎縮、筋線維束性収縮(ピクつき)が目立つ
・嚥下障害、構音障害、呼吸筋障害が進行する
ALSでは、「できていた動作ができなくなる」という変化が短期間で生じやすく、日常生活能力の低下が顕著に表れます。
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2.筋ジストロフィーとは
筋ジストロフィーは、筋肉そのものが壊れやすく、再生しにくいという特性をもつ遺伝性疾患の総称です。原因となる遺伝子や発症時期によって複数の型が存在します。
■ 主な特徴
・幼少期から発症する型、成人期以降に発症する型がある
・進行は比較的緩やかなものから急速なものまで幅がある
・筋力低下が体幹や四肢近位筋から始まることが多い
・呼吸筋や心筋が障害される型もある
筋ジストロフィーでは、長年にわたる経過の中で、少しずつ生活動作が制限されていくケースが多く見られます。
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3.ALSと筋ジストロフィーの本質的な違い
両疾患は「筋力低下・筋萎縮」という共通点がありますが、障害の起こる場所が異なります。
■ ALS:筋肉を動かす「神経」が障害される
■ 筋ジストロフィー:筋肉そのものが障害される
この違いは、障害年金の診断書作成時の現症把握において非常に重要です。ALSでは神経学的所見や呼吸・嚥下機能の低下が重視され、筋ジストロフィーでは筋力低下の程度や心肺機能への影響が評価の軸となるからです。
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4.障害年金の裁定請求時のポイント
■ ALSの場合
ALSは進行が早いため、初診日から請求時までの変化を時系列で整理することが重要です。
・どの部位から症状が始まったか
・日常生活動作がいつ・どのように困難になったか
・嚥下・発語・呼吸機能への影響
これらを主治医と共有し、診断書に反映してもらうことが、適正な等級認定につながります。
■ 筋ジストロフィーの場合
長期経過をたどる疾患であるため、現在の状態だけでなく「これまでできていたことが、今はできなくなっている」という変化の経過を丁寧に整理する必要があります。
・歩行・立ち上がり・階段昇降の可否
・上肢動作(更衣、洗髪、食事動作など)
・呼吸補助装置の使用状況
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5.定期的な更新時に迷いやすいポイント
ALS、筋ジストロフィーともに、更新時に「前回と比べて大きな変化がない」と感じられることがあります。しかし、進行性疾患では、維持されている状態そのものが、医療的・社会的支援を必要とするケースが多いのが実情です。
■ 更新時に意識すべき視点
・医療介入や福祉用具によって ” 維持されている ” 機能
・介助量が増えている動作
・疲労や呼吸苦など、数値に表れにくい症状
特に筋ジストロフィーでは、呼吸機能や補助換気の導入状況が、現症評価の重要な判断材料となります。
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6.まとめ
ALSと筋ジストロフィーは、同じ「肢体の障害」に分類される疾患でありながら、障害の成り立ちや進行の仕方、評価すべきポイントが大きく異なります。
疾患特性を正しく理解することは、障害年金の裁定請求だけでなく、定期的な更新時に迷わず手続きを進めるためには、大切なことになります。
進行性疾患だからこそ、現在の状態をサポートする側が正確に把握し、主治医と情報を共有しながら、適切な支援につなげていくことが重要です。
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※本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の判断については、それぞれの専門家へのご相談をおすすめします。
